【Society】基準病床数制度ってなんだろうと思って調べてみた
「PCR検査を進めれば医療崩壊」と言い続ける人たちがいる一方で、そもそもその先にある感染症病床数が足らないことが原因の一つなんだろうなーと思って、どうしてそうなったのかについては調べてみました。
この制度「基準病床数制度」の目的は「病床の整備について、病床過剰地域(※)から非過剰地域へ誘導することを通じて、病床の地域的偏在を是正し、全国的に一定水準以上の医療を確保」と書かれています。趣旨としては、人口分布が大きく変化する中、病院数及び病床数が多い地域の数を抑制し、逆に足らない部分を補完するための制度のように読み取れます。ただ、医療費抑制の視点が強く働くこともあるので相対としては「減らす」圧力が多く働くシステムであるように思います。思想としては、足らない地域への予算誘導を鑑みて過剰な地域を抑制していくということなのでしょう。この仕組み、厚労省が定めたものではありますが、資料を見るとその権限は知事に委ねられていることがわかります。
また、基準病床数制度の説明文の中に「基準病床数制度における特定の病床等に係る特例」という項目があるのですが、ここにはこう書かれています。「更なる整備が必要となる一定の病床については、病床過剰地域であっても、都道府県は、厚生労働大臣の同意を得た数を基準病床数に加えて、病院開設・増床の許可を行うことができる。」この特例の項目の中に「新興・再興感染症に係る病床」や「急医療に係る病床」が入っていますので都道府県判断で病床数についてはある程度コントロールすることができそうです(とはいえ、予算の問題があるので簡単にはいかないとは思いますが)。
制度の問題を謳う発信の多くは厚労省を叩くものが多いのですが、基準を決めているのは厚労省ですが最終決済を行なっているのは国ではなく地方自治体であるという事実はあまり書かれていなかったので、これが一つの学びになりました。ちなみに、今回のコロナで問題視されているのは感染症の病床数ですがここについては「感染症病床は、都道府県の特定感染症指定医療機関等の感染症病床の合計数を基準に知事が定めている」と書かれている通り厚労省での算出ではなく、あくまで地方自治体の算出数に則って実施しているようです。となると、この件で厚労省は「地方自治体から提出された数字をベースに」数値を割り返していることになります。結果的なその病床数の決定が地方自治体にあることは、この北海道の史料からも類推できます。
基準病床数の設定について
上記資料の最終ページ「新たな「北海道医療計画」で定める基準病床数「感染症」について(試算数)」が、感染症向けの病床数の算出ページになっていますが算定方法については「医療法施行規則では、算定式が規定されていないため、別途、国から示されている「感染症指定医療機関の指定について」(平成11年3月19日 健医発第457号)に基づき算定している。」とされています。地域によっての事情が諸々ある事、またそもそもの母数が小さいことから変動要因の影響が大きいことを鑑み、指針は出しつつも最終的な判断を地方自治体に委ねたことはマーケティング的にも理解できます。ちなみに、上記で書かれている資料のキャプが下記
感染症指定医療機関には四種の種別があるようです。第一種感染症指定医療機関、及び第二種感染症指定医療機関については都道府県知事が指定し原則都道府県に1箇所置けばいいことになっています。数年前の資料を見るとこの「第一種感染症指定医療機関」を指定しない都道府県もあったようですが、現時点では全ての都道府県に設置されているようです。これは、元々の趣旨である「病床の地域的偏在を是正」がなされた結果なのではないかと思いますので、その視点では正しく機能していると感じました。
感染症指定医療機関の指定状況(平成31年4月1日現在)
さて、今回のコロナですが種別で言うとどこに当たるんだろうなーという疑問が湧いてきました。そこで資料をよく読んでいると「感染症法の対象となる感染症」というページにぶつかりました。コロナは、重症呼吸期間症候群にあたるので第二種のようですね。下記資料は「感染症の範囲及び類型について」からのキャプチャーです。
平成31年度の資料を見ると、
- 特定感染症指定医療機関 : 4医療機関(10床)
- 第一種感染症指定医療機関 : 55医療機関(103床)
- 感染症病床を有する指定医療機関 351医療機関(1,758床)
ただ、現実問題としてこの病床数だと対応し切れないなと思うのですが、先に引用した「感染症の範囲及び類型について」を見ると感染症に対しては下のキャプチャーのような対応が定められているようです。
ここを見る限り、原則入院ですが(都道府県知事が必要と認めるとき)となっていますので、進行状態によって対応を知事が決めることができるとなっています。これは、「軽傷者の宿泊施設などでの隔離療養」となるのかと思います。この判断は、上記の通り政府判断ではなく都道府県判断。となると、宿泊先の確保や隔離なども東京で言えば小池さんの判断でできることになるし、それを小池さんが発表するのはそれルールだからなのねということも腹落ちしました。ただ、この宿泊先確保については「宿泊費用」「受け入れに関わる防護コスト」「従業員の健康への対処」「風評被害策」などへの準備やコストがかかります。いずれも、コストと手間がかかるので全額地方自治体費用となるとかなりの負荷となるため、本来国がここを費用面でバックアップし速やかに動けるようにするのが今回のあり方だと思うのですが、ここに関しては財務省が出し惜しみをした結果なかなか進行しなかったというのが実際の話ではないかと思います。とが思い切った判断ができるのは、財源があるからなのですよね。
今後多分議論になるのは、この基準病床数制度のあり方なのですが、コロナのような感染症が爆発的に増えるケースがこれからも頻発するかというと歴史的に見てもあまりないだろうなーという事は予想ができます。ただ、この状況があと一月もすれば良化するとも思えません。となると、ルールはルールでいいのですが、現場でフレキシブルに対処できるような柔軟な繋ぎになるような制度で補完するべきかと。例えば、感染病棟として一時切り替えが効くような一般病棟を機能として指定病院に持たせ、その機能を持つにあたってのコスト及び、機能の維持コストを国が負担するなど。
とはいえ、上のキャプチャーを読むとわかるのですが、そもそも第二種に関しては許可証が必要となるため準備しておくにあたってはこの第二種の許可病院の数を確保するなどの措置があらかじめ必要になると思います。増やすの大変なので、今ある病院の病床でのコントロールが今は現実的な感じですね。ただ、単に病床を増やせばいいわけではなく、人員や資材などもそれに合わせて準備する必要があるため、防護服やマスクなど今回明らかに不足していた資材の準備についてもきちんと決めておく必要性があることについてもきちんと記録を取って次に生かしていく必要がありそうですね。そういう意味では、こういうルールを決める現場にマーケティングスキルのある人間を配置するという事も今後は念頭に置いておいた方が正しくルールが機能するのではないかと考えます。
もう一つ、今回浮き彫りになった「国民のために税金を使いたくない」国のありかた自体を変えていく事。視点を変えると、中央集権型政治の限界点が今回見えたように思います。この辺が、今後のキーになってくるのかなーって思いました。そういう意味では、国庫ではなく地方自治体に予算をある程度持たせる形への変更があるべき姿なのかもしれないし、その場合改めて考えるのが道州制だったりするのかもしれません。とはいえ、地方自治体の中でもピンキリで「ええ?何言ってるの?」って人もいたので、手放しで地方自治に移行できるかっていうとそんな簡単な話でもないんですけど。